2025年NBAプレーオフ、ウェスタン・カンファレンス1回戦の注目カードは、シーズン第2シードのヒューストン・ロケッツ(HOU)と第7シードのゴールデンステート・ウォリアーズ(GSW)の対戦です。
ロケッツは若手中心の布陣で着実に成長し、今季は構築されたオフェンスと機動力のあるディフェンスを軸に躍進。長らく低迷していたチームが再建の成果を見せ、ポストシーズン上位に食い込みました。
一方のウォリアーズは、ステフィン・カリー、ドレイモンド・グリーンらプレーオフ経験豊富なベテランを軸としたチーム。レギュラーシーズンでは苦しみながらも、試合運びの巧さと流動的な守備でプレーインを勝ち上がってきました。
このシリーズは「構築された型のロケッツ」対「流動性の高い守備と攻撃を持つウォリアーズ」という、明確に異なるバスケットスタイルのぶつかり合いです。
本稿では、両チームの攻守の特徴をデータと共に分析し、シリーズを分ける戦術的な”重心”を読み解いていきます。
※本記事は既存の2つの記事(HOU、GSW)で示した分析結果をベースに作成しています。
※データ分析を実践する際に参考にしている書籍『Basketball Data Science: With Applications in R』の紹介記事も書いていますので、よろしければご確認ください。
📊【 オフェンス比較:構築型 vs 流動型 】
ロケッツとウォリアーズの攻撃スタイルには、見た目のテンポ以上に本質的な違いがあります。両チームのペース(試合のテンポ)は、ロケッツが99.03、ウォリアーズが99.37であり、いずれもリーグ平均の99.58に近い数値です(※スタッツはNBA公式を参照)。しかし、プレイの構築からフィニッシュに至るまでの思想には、明確な違いが見られます。
playlengthから読み解く攻撃リズム
以下は、プレイの長さ(playlength)を基にしたロケッツのショット分布です。この分布を見ると、ロケッツは5秒付近と13秒付近にショット頻度の山を2つ形成していることが分かります。これはおそらく、「速攻」からのショットと「セットプレイ」からのショットによって生じた2つのピークであり、トランジションで早めに攻めるか、形を整えてから仕掛けるかという、ロケッツの2段構えのスタイルを象徴していると考えられます。

一方、ウォリアーズのショット分布を見ると、プレイ時間の経過とともにショット頻度が徐々に増していく傾向が確認できます。時間をかけてオフェンスを展開しつつ、常に最適なショット機会をうかがう──そのような流動的かつ柔軟なウォリアーズのスタイルが、ここにも表れています。

次に、両チームのオフェンススタイルを詳しく確認するため、プレイタイプ別スタッツを取り上げていきます。
プレイタイプ別スタッツで見るチームの特徴
以下のグラフは、Cut、Isolation、Off-Screen、P&R Ball Handler、Post Up、Transitionの6つのプレイタイプについて、使用頻度(%)とリーグ順位を比較したものです。ウォリアーズは赤色、ロケッツは青緑色で表されており、棒グラフ上の括弧内の数字はリーグ順位を示しています。

グラフを見ると、ロケッツはIsolation、Pick&Roll(Handler)、Post Upの使用頻度が高く、これらの項目でウォリアーズを上回っていることが分かります。アイソレーションによる個の勝負を適度に織り交ぜながらも、フレッド・バンブリートを起点とするP&Rや、アルペレン・シェングンを軸としたポストプレイを活かし、「型を重視」したオフェンスを展開している様子がうかがえます。
一方、ウォリアーズはCutとOff-Screenのプレイ頻度が高く、パスとオフボールムーブメントを駆使した「流動的な」オフェンスが特徴です。
ショット距離別の傾向とスタイルの違い
次に、オフェンスのフィニッシュとなるショットの傾向をショット距離別の分布から確認していきます。

ロケッツの距離別ショット分布を見ると、3Pの割合は全体の約38%で、リーグ平均の41%よりもやや控えめです。一方で、リム周辺のショット比率は32%とリーグ平均(30%)をやや上回っており、シェングンを中心にペイントアタックを積極的に活用している、バランス型のスタイルといえるでしょう。
対して、ウォリアーズは3Pの占める割合が非常に高く、全体の46%に達しています。これは「3P重視型」の典型といえ、カリーを中心としたアウトサイド攻撃の傾向が明確に表れています。

ロケッツは型に忠実、ウォリアーズは流動性で揺さぶる
以上を踏まえると、ロケッツのオフェンスは明確な「型」を軸としており、それに沿った展開でペイントアタックを中心に得点を重ねていることが分かります。若手主体のチームながら、型がはまったときの爆発力は大きく、セット完遂の精度が勝負のカギを握ります。
一方、ウォリアーズはスクリーンプレイ、カット、ハンドオフといった要素を流動的に織り交ぜ、相手守備のわずかな隙を突いて3Pを中心に波状攻撃を仕掛けるスタイルです。
このような“構築型”と“流動型”の対比こそが、このシリーズの最大の見どころと言えるでしょう。
🛡【 ディフェンス比較:個の力 vs 流動性 】
DREB・BLK vs STL:守備の成り立ちの違い
ディフェンス面でも、ロケッツとウォリアーズには明確な違いがあります。以下のチャートは、横軸に1試合あたりのディフェンシブリバウンド数、縦軸に1試合あたりのブロック数を取り、ロケッツの選手をプロットしたものです。バブルの大きさはスティール数、色はプラスマイナスを表しており、チャート内の実線はリーグ平均を示しています。

ロケッツはディフェンシブリバウンドやブロックの数字でリーグ平均を上回る選手が多く、特にシェングン、アメン・トンプソン、ジャバリ・スミスJr.、タリ・イーソンといったインサイドプレイヤーがペイント内で高い存在感を放っています。また、バンブリートやアメン・トンプソン、タリ・イーソンはスティール数でも貢献しており、ペイントの厚みに加えて機動力も兼ね備えた守備構成といえます。

一方のウォリアーズは、ペイント内での存在感がドレイモンド・グリーンに大きく依存しています。カリー、ジミー・バトラー、ブランディン・ポジェムスキーなど、スティールやパスカットに長けた選手が多く、流動的なローテーションで相手の攻撃を読み切るスタイルが特徴です。ただし、明確なリムプロテクターが少ないため、ペイントエリア内での守備にはやや脆さも見られる可能性があります。
ペイントエリア内とプレイタイプ別の失点の比較:PITP、P&R、Post up、Off screen
まずは、ペイントエリア内での失点(PITP)に注目してみましょう(スタッツはNBA公式を参照)。ロケッツのPITPは4080点、ウォリアーズは3744点で、意外にもウォリアーズの方が少ない結果となっています。ウォリアーズのPITPはリーグ2位の少なさを誇り、堅実な守備がデータにも表れています。一方、ロケッツはリーグ18位と中位に位置し、個々のディフェンシブスタッツの良さに反して、インサイド守備に綻びがあることを示唆しています。
次に、両チームのプレイタイプ別の失点を比較します。以下のグラフは、Off-Screen、Pick&Roll Ball Handler、Post Upの3つのプレイタイプにおける失点数とリーグ順位を可視化したものです。順位は「失点の少なさ」に基づいたもので、数値が小さいほど上位(=守備が優秀)であることを示します。

このグラフからもわかるように、ロケッツはP&Rへの対応に大きな課題があり、1526失点・リーグ29位と苦戦しています。Post Upでは比較的安定した数字(300点・リーグ10位)を示しており、インサイドプレイヤーによるフィジカルな対応が効いていることが伺えます。Off-Screenに対しても堅実な守備を見せており、失点は264点でリーグ5位。パスの出し手と受け手両方への対応力の高さが伺えます。
一方ウォリアーズは、P&Rに対して1125点・リーグ4位と高い守備力を見せており、スクリーンプレイに対するローテーションの質の高さが伺えます。ただし、Post Upでは337点・リーグ20位と、インサイドでの1on1対応にはやや課題を残しています。
守備の質:フィジカルか、流動か
ロケッツはサイズとフィジカルで守る傾向が強く、リムプロテクト能力は高いものの、P&Rやトランジション局面でのヘルプディフェンスやローテーションには改善の余地があります。対してウォリアーズは、スイッチやカバーの判断が的確で、流動的かつ組織的な守備を展開。特にP&RやOff-Screenへの対応でそれが顕著に表れています。
この守備スタイルの対比がシリーズを通じてどう影響するかは大きな注目点です。ロケッツが連携面の穴を突かれ続けるのか、それとも個の力で守り切れるのか。ウォリアーズがPost Upを起点に崩される場面も含めて、両者の“守り方”の違いが勝敗を分ける鍵となるでしょう。
🔑【 シリーズの鍵:P&Rとミドルレンジが揺さぶる重心 】
このシリーズで最も注目すべきは、Pick&Roll(P&R)を巡る攻防です。
ロケッツはP&Rを攻撃の中心に据え、バンブリートとシェングンを軸にした二人の連携プレイで得点機会を創出しています。特にシェングンのポストスキルとパスセンスを活かした多様な展開は、シンプルなP&R以上の破壊力を持っています。レギュラーシーズンでは、ロケッツのP&R使用頻度は全体の17.1%とリーグ9位に位置し、チーム戦術の主軸であることがデータにも表れています。
一方で守備面では、ロケッツはP&Rからの失点が1526点とリーグワースト2位(29位)。これは主にP&Rを仕掛けられる頻度が19.4%と高く(ウォリアーズは14.5%)、相手から繰り返し狙われている点に起因しています。ガードとビッグマンの連携不足や、スイッチ、ヘルプのタイミングにまだ改善の余地があることがうかがえます。
ウォリアーズは、このロケッツの弱点を突く準備が整っています。流動的なスクリーンアクションに加え、カリーやバトラーを起点とした即時的なP&R、リスクリワードを見極めたパス展開、インサイドのスペースの活用など、プレーの選択肢が豊富です。ウォリアーズはP&Rを13.4%使用(リーグ28位)と頻度は多くないものの、要所での使い方が巧みで、むしろ「狙い撃ちする形」で相手の弱点を突いてくるチームです。
このP&Rに対する守備対応の質と適応の速さこそが、シリーズの流れを左右する最大の鍵となるでしょう。構築された型で攻めるロケッツが、守備の綻びを突かれ続けるのか。それとも、ウォリアーズの仕掛けを個の力で封じ、リズムを守れるのか。P&Rがこのシリーズの“戦術の重心”を大きく揺さぶるはずです。
以下に、両チームの強みと弱みをまとめたチャートを掲載します:
⚖️ 双方の強み・弱み:HOU(構築型) vs GSW(流動型)
HOU(構築型) | GSW(流動型) |
---|---|
◎ Pick & Roll 頻度高(攻) | ◎ P&R 守備対応が巧み |
○ フィジカルなリム守備 | ◎ スイッチ・ヘルプ判断力 |
△ ヘルプローテーション遅れ | △ Post Up にやや弱さ |
△ 経験不足(若手主体) | ◎ 経験豊富なベテラン揃い |
📝【 まとめ:戦術と世代、そして流れを読む戦い 】
このシリーズは、チームの「型」をどこまで貫き通せるかという戦術面の対決であると同時に、世代間のぶつかり合いでもあります。
ロケッツは、再建期を経て築き上げた構築型のオフェンスをどこまでプレーオフでも通用させられるかが問われます。若手中心の構成であるため、ミスや波が出る可能性はあるものの、型にハマったときの爆発力には期待が持てます。
一方のウォリアーズは、プレーオフという舞台での経験と試合運びに長けたベテランの力が健在です。流動的な守備と攻撃の中で、細かな連携やスペースの使い方においては、やはり一日の長があります。
勝敗の鍵を握るのは、Pick&Roll(P&R)に対する守備対応です。仕掛けられる頻度の高さから失点が増えやすいロケッツが、ウォリアーズの多様なアクションをどれだけ防げるか。そしてウォリアーズが、若いチームに対して経験と連携力で的確な対処を見せられるかが注目されます。
ロケッツは、レギュラーシーズンの勢いそのままに、若さで百戦錬磨のウォリアーズを破ることができるでしょうか。あるいは、ウォリアーズがその経験と戦術理解で、若いチームの隙を突き、シリーズを制するのでしょうか。
スタイルの違いが色濃く出るこの対決は、ファンにとっても見逃せないシリーズとなるでしょう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、今回のトラッシュトークは以上です。
※参考<統計ソフトRに入力するコマンド>
統計ソフトRのインストール手順をまとめた記事も作成していますので、よろしければご参考ください。
library(tidyverse)
# ワイド形式のデータ作成
df <- tibble(
`Play Type` = c("Isolation", "P&R Ball Handler", "Post Up", "Cut", "Off-Screen", "Transition"),
HOU = c(7.6, 17.1, 5.3, 6.5, 2.2, 18.1),
GSW = c(5.0, 13.4, 2.3, 10.1, 7.7, 17.7),
HOU_rank = c(11, 9, 4, 17, 29, 15),
GSW_rank = c(26, 28, 22, 1, 1, 17)
)
# 使用頻度のロング形式
df_pct <- df %>%
pivot_longer(cols = c(HOU, GSW), names_to = "Team", values_to = "Percentage")
# 順位のロング形式
df_rank <- df %>%
pivot_longer(cols = c(HOU_rank, GSW_rank),
names_to = "Team_rank", values_to = "Rank") %>%
mutate(Team = if_else(str_detect(Team_rank, "HOU"), "HOU", "GSW")) %>%
select(-Team_rank)
# 両方を結合してLabel列作成
df_long <- df_pct %>%
left_join(df_rank, by = c("Play Type", "Team")) %>%
mutate(Label = sprintf("%.1f (%d)", Percentage, Rank))
# グラフ描画
ggplot(df_long, aes(x = `Play Type`, y = Percentage, fill = Team)) +
geom_bar(stat = "identity", position = position_dodge(width = 0.8), width = 0.6) +
geom_text(aes(label = Label),
position = position_dodge(width = 0.8),
vjust = -0.3, size = 3.5) +
labs(
title = "プレイタイプ別オフェンス構成とリーグ順位(HOU vs GSW)",
x = "プレイタイプ",
y = "使用頻度(%)"
) +
theme_minimal() +
theme(
text = element_text(family = "sans"),
plot.title = element_text(size = 14, face = "bold"),
axis.text.x = element_text(angle = 20, hjust = 1)
)
# ワイド形式のデータ作成
df2 <- tibble(
`Play Type` = c("P&R Ball Handler", "Post Up", "Off-Screen"),
HOU = c(1526, 300, 264),
GSW = c(1125, 337, 256),
HOU_rank = c(29, 10, 5),
GSW_rank = c(4, 20, 3)
)
# 失点のロング形式
df2_pct <- df2 %>%
pivot_longer(cols = c(HOU, GSW), names_to = "Team", values_to = "Percentage")
# 順位のロング形式
df2_rank <- df2 %>%
pivot_longer(cols = c(HOU_rank, GSW_rank),
names_to = "Team_rank", values_to = "Rank") %>%
mutate(Team = if_else(str_detect(Team_rank, "HOU"), "HOU", "GSW")) %>%
select(-Team_rank)
# 両方を結合してLabel列作成
df2_long <- df2_pct %>%
left_join(df2_rank, by = c("Play Type", "Team")) %>%
mutate(Label = sprintf("%d (%d)", Percentage, Rank))
# グラフ描画
ggplot(df2_long, aes(x = `Play Type`, y = Percentage, fill = Team)) +
geom_bar(stat = "identity", position = position_dodge(width = 0.8), width = 0.6) +
geom_text(aes(label = Label),
position = position_dodge(width = 0.8),
vjust = -0.3, size = 3.5) +
labs(
title = "プレイタイプ別失点とリーグ順位(HOU vs GSW)",
x = "プレイタイプ",
y = "失点(PTS)"
) +
theme_minimal() +
theme(
text = element_text(family = "sans"),
plot.title = element_text(size = 14, face = "bold"),
axis.text.x = element_text(angle = 20, hjust = 1)
)